滝沢 康

滝沢 康

開業医から見た総合診療センター

私は、群馬県で開業しながら、月に数回、総合診療センターで研修をしております。開業した後にも研修を望んだ理由とその意義について、私見を述べたいと思います。

現在は、医療の細分化、専門化が進み、より高度な医療を受けることができる時代となりました。

その一方で、開業医をしていますと「かかりつけ医として近所にいてなんでも診てほしい。いつでも、気軽に診てほしい。症状、臓器別、年齢にかかわらず診察し必要があれば適切な病院を紹介してほしい。」地域柄か、このような希望をお持ちの患者さんが多いことを実感しております。

自院の患者さんは、軽症で、一般的によくある疾患の方がほとんどですが、このような希望をお持ちの患者さんの診療をしていますと、注意しなければならないことがいくつかあります。まず、一人の患者さんが、複数の疾患を合併していることが少なくないことです。特に、高齢化に伴い、複数の慢性疾患の合併も増加し、基礎疾患の他に整形外科疾患、皮膚疾患、眼疾患、神経疾患など多岐にわたる疾患の合併も珍しくありません。そのため、ある症状に対し、どの病院の何科を受診すれば良いか分からないので診てほしいと相談を受けることもあります。例えば足の痛みとしびれを主訴とする患者さん。視診で爪囲炎、陥入爪、鶏眼、外反拇趾、扁平足、脊椎後彎症があり、問診で間欠性跛行、前傾姿勢で改善する下肢のしびれと冷感があります。現病歴に高血圧と糖尿病があり、触診で下肢の動脈に左右差あります。問診と視診触診だけでも、皮膚科疾患に加えて、骨粗鬆症による椎体骨折、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、運動器症候群、運動器不安定症などの可能性があり、末梢動脈疾患も否定できません。この患者さんのように問題点が、皮膚科、整形外科、内科などいくつかの診療科に及び、それらが関連しながら症状として発現し、現病歴とも併せて診なければならない場合が少なくありません。

次に、一般的によくある疾患の患者さんの中に、見逃してはならない重大な疾患が潜んでいることです。自院に救急車での来院はありませんが、独歩で来院する患者さんの中に、時として、緊急性の高い重大な疾患、専門的治療を要する危険な疾患が潜んでいるのです。来院した時が、これから重症化する前段階かもしれません。例えば、腹痛を主訴にする虚血性心疾患、数日間続く後頚部痛のくも膜下出血、数週間前からの疲労感を主訴とする肺塞栓症など。胸痛、頭痛、呼吸困難など典型的症状を訴えない緊急性の高い疾患が、非典型例として潜んでいるのです。

最後に、主訴以外、主疾患以外のことにも意識を向けなければならない患者さんがいることです。例えば、転倒などによる外傷を診る場合、多発外傷はいつも念頭に置きますが、外傷の原因として一過性の意識障害があったり、不整脈などの循環器疾患があるかもしれません。また、パーキンソン病などの神経疾患や運動器症候群などが転倒の一因のこともあります。外傷以外に訴えがなくとも、一歩踏み込んで外傷の背景を慮る必要があります。また、二人に一人が癌に罹患する現在です。高血圧、糖尿病など生活習慣病を診ていた患者さんが、もしかしたら癌を発症しているかもしれません。発見された時に既に末期癌であったならば、かかりつけ医として自責の念に堪えません。患者さんの家族背景、社会背景も知りつつ、長い時間軸で患者さんと接するのであれば、主訴、主疾患以外のことにも配慮するべきでしょう。

それでは、このような特徴のある患者さんの要望に答えるために、かかりつけ医に求められスキルとはどんなことでしょうか。それは、さまざまな疾患について幅広く精通し、広いだけではなく、ある程度深い知識と経験を持つことです。そして、自院でできる診断治療は何か、できないことは何か、できないことはどこでできるのかを考え、適切な時期に適切な医療機関を紹介できる能力です。紹介する場合も、今すぐなのか、明日まで待てるのか重症度、重症化の判断能力が求められます。

紹介先はどこが良いか分からない患者さんが多く、紹介されることが経済的、時間的に負担になることもあります。そのため、どのような検査、治療が必要かを具体的に想定し紹介する医療機関を選定する方が効率よく医療が進みます。
また、かかりつけ医が実際に行う治療の質も当然求められています。病診連携で紹介した後、自院で経過を診る場合、病院と遜色のない診療が求められています。

では、どうすれば、このようなスキルを身につけることができるのでしょうか。
それは、自院だけでは経験できない総合診療の臨床現場を、内科系、外科系にかかわらず実際に体験することです。

勿論、机上の知識、講義なども大切ですが、時に自己流、独断的な判断に陥らないとも限りません。また、一事が万事、自分の過去の経験だけに安住した判断だけでは間違うこともあるかもしれません。総合診療センターでは、内科系、外科系にかかわらず、さまざまな疾患の発症からの経過、診断治療過程、いろいろな医師の思考過程を知ることができ、総合診療センターから各科へ転科した後の専門的治療の経過も知ることができるのです。総合診療科センターで学ぶことは、かかりつけ医をしている私にとって百聞は一見に如かずの生きた教科書であり、さまざまな疾患を幅広く、ある程度深く知ることに繋がっているのです。そして、医師としての自分の守備範囲を確認し、自分の立ち位置を見極めるためにも役立っているのです。

開業医、そして、かかりつけ医として、より質の高い医療を提供するために、倦まず弛まずの気持ちを持ちつつ、総合診療センターでの臨床経験をこれからも役立てていきたいと思います。

2014/6/5

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